この夏、私たちはどんな空を見上げていたのでしょう。
落ち込んだ時や悲しい時、寂しく感じた時、なんとなく夜空を見上げて……。
静まり返った夜、遠くにいる見ず知らずの誰かと、同じ星を探していたかもしれません。
コロナ禍という時代の光と影を背景に、離れていてもつながろうとする若者たちの想いを描いた物語。
誰かに届かない言葉、言えなかった本音、失われた日常のかけら――。
それでもなお、彼らは空を見上げ、希望の光を見つけ出します。
閉ざされた夏に射し込む一筋の星明かりのように、この物語は読む人の心にそっと寄り添い、未来へ向かう勇気を灯してくれるでしょう。
作品概要・基本情報
タイトル:この夏の星を見る
著者:辻村 深月(つじむら みづき)
出版社:角川文庫(KADOKAWA)
発売日:2025年6月17日(文庫版)
原著刊行:2023年6月30日(KADOKAWA 単行本)
ジャンル:青春小説/群像劇/現代ドラマ
巻数:上下巻
著者情報
著者名:辻村 深月(つじむら みづき)
生年月日:1980年2月29日生まれ(山梨県笛吹市出身)
職業:小説家
2004年、『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。
以降、『スロウハイツの神様』『ツナグ』『かがみの孤城』など、幅広い世代に支持されるヒット作を次々と発表。
2012年には『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞し、その確かな筆力と物語構築力が高く評価されました。
辻村深月の作風は、「誰かの心に寄り添う優しさ」と「痛みの中に灯る希望」が特徴です。
現実の中に潜む小さな奇跡や、見えない絆をすくい上げるように描くことで、多くの読者の共感を呼び続けています。
あらすじ
あの夏、世界は突然、静かになった。
学校も部活も、人とのふれあいも、すべてが止まってしまった時間の中で――。
舞台は 2020年・コロナ禍。学校生活や部活動が制限されている中、高校生・中学生たちは、オンラインを活用してもつながろうと奮闘します。
物語の中心となるのは、茨城県立砂浦第三高校の天文部。部員の 亜紗 は、自作の望遠鏡を使い、星を探す速さを競う「スターキャッチコンテスト」を開催できないかと考えます。コロナの影響で活動が制限される中、亜紗は全国の学生たちに声をかけ、リモートでの合同天体観測プロジェクトを立ち上げます。
参加するのは、東京の中学生 真宙(まひろ)、長崎県五島列島の高校生 円華(まどか) など。彼らは距離を超えてつながり合い、葛藤や孤独、期待や希望を抱えながら、星空を通じて互いの思いを交差させていきます。
「離れていても、同じ空を見上げていれば — —」
そんな信念と思いを胸に、彼らは一つの夜、一つの挑戦に立ち向かいます。
読みどころ・魅力ポイント
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🌌 星と人をつなぐ象徴的なモチーフ
― 夜空や星を“希望”や“再生”のメタファーとして描き、読後に余韻が残ります。 -
💻 オンライン時代のリアルな青春描写そ
― SNSや画面越しの交流など、現代の若者が抱える孤独や葛藤が丁寧に描かれています。 -
💫 複数の視点で描かれる群像劇の深み
― それぞれの登場人物の想いが少しずつ重なり、やがて大きな光を生む構成が秀逸です。 -
💔 “会えない”切なさの中にある優しさ
― コロナ禍という制約の中でも、人が人を想う気持ちの尊さが胸に迫ります。 -
✨ 辻村深月ならではの繊細な筆致
― 一文一文が詩のように美しく、読みながら心の奥に灯りがともるような感覚を味わえます。
読後の感想
『この夏の星を見る』を読み終えたとき、胸の奥に静かな光が灯るのを感じました。
それは派手な感動ではなく、まるで夜空の星がじわりと瞬くような、やさしい余韻です。
文庫本は上下2巻だったので、「わ、読めるかなあ……」と不安な気持ちで読み始めましたが、どんどん引き込まれて、感動を沢山いただきました。
コロナ禍というイレギュラーな現実の中で、若者たちが「会えない」という壁にぶつかりながら、それでもつながりを求めていく姿が痛いほどリアルでした。
オンラインの画面越しに交わされる何気ない会話、文字だけのやりとりの中に宿る想い――そのひとつひとつが、私自身の記憶を静かに呼び覚ましてくれます。
辻村深月さんの筆は、登場人物たちの心の揺らぎを驚くほど丁寧にすくい上げます。
怒りや悲しみ、そして希望が交錯する彼らの姿は、まるで群青の夜空に散る星々のよう。
それぞれが孤独を抱えながらも、どこかで確かにつながっている――そんなメッセージが全編を貫いていると感じました。
また、群像劇としての構成力も秀逸です。
登場人物たちの視点が少しずつ重なり、最後には一枚の星空のように美しく結びつく。
その瞬間に訪れる“希望の再生”の描写には、思わず涙がこぼれました。
「この夏」は、世界中の誰もが苦痛と喪失と絶望を感じた季節。会えない、出来ない、行けないが当たり前。
いつも通りが奪われて、本当に辛い日々……。
この作品は、過ぎ去ったあの夏をもう一度見つめ直すような一冊です。
「会えなかった時間」にも確かに存在した“想い”や“つながり”を思い出させてくれる――そんな優しい力を持った物語だと感じました。
こんな人におすすめ!
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🌠 静かな感動を味わいたい方
派手な展開よりも、登場人物の心の変化や人の優しさをじっくり感じたい方にぴったりです。 -
💻 コロナ禍の記憶や孤独を抱えてきた方
“あの時間”を過ごした誰もが共感できるリアリティがあり、読後にそっと心が癒やされます。 -
💫 辻村深月作品が好きな方
『かがみの孤城』や『ツナグ』のように、人の絆と希望を描く作風が好きな読者におすすめです。 -
📚 青春小説・群像劇が好きな方
登場人物の視点が少しずつ交差していく構成は、まるで星座のように美しくまとまります。 -
🌌 現実の中に幻想を感じたい方
日常の延長にある“ひかり”を見つけたい人、静かに自分と向き合いたい読書時間を求める方へ。
読書時間・巻数・難易度の目安
巻数:全2巻(上巻・下巻)
ページ数:各巻 約350〜400ページ
読書時間の目安:
・読書慣れしている方:1巻あたり 約5〜6時間
・ゆっくり読む方:1巻あたり 約8〜9時間
文章の読みやすさ:★★★☆☆(中程度)
辻村深月さん特有の繊細な心理描写や複数視点の構成があるため、物語に没入するまで少し時間がかかりますが、文体は非常に丁寧で読みやすいです。
読書のおすすめスタイル:
星や夜空の描写が美しいため、静かな夜や雨の日など、落ち着いた時間に読むのが最適です。
下巻では物語が一気に動き出すため、できれば連続して読むと感動の深さがより増します。
映画化情報
🎬 映画版概要・スタッフ
公開日:2025年7月4日
上映時間:126分
配給:東映
監督:山元環
脚本:森野マッシュ
音楽:haruka nakamura
主題歌:suis from ヨルシカ
天文監修:岡村典夫、竹本宗一郎
主なキャスト
溪本亜紗:桜田ひより
飯塚凛久:水沢林太郎
その他、長崎の学生役や都内の学生・顧問教員など多彩なキャストが登場
🔍 映画化で注目すべき演出・反響
原作のもつ繊細な心理描写を映像としてどう “見せるか” がひとつのチャレンジとなりました。
特に、「マスク越しの表情」をどう演出するかについて、主演・桜田ひよりさんは「目で表情を伝えることの難しさと可能性」に言及しており、それが映画全体の表情設計にも影響を与えているようです。
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